名古屋地方裁判所 昭和33年(ワ)90号 判決 1962年2月17日
主文
一、原告(反訴被告)の請求を棄却する。
二、別紙第一目録記載の土地は被告(反訴原告)の所有であることを確認する。
三、原告(反訴被告)は被告(反訴原告)に対し別紙第三目録記載の建物につき昭和三十二年一月一日附移転を原因とする所有権移転登記手続をなせ。
四、原告(反訴被告)は被告(反訴原告)に対し前項の建物を明渡すと共に、昭和三十二年一月一日以降右建物明渡完了に至るまで一ケ月金一万円の割合による金員を支払え。
五、訴訟費用は本訴並に反訴共原告(反訴被告)の負担とする。
六、この判決は第一、二、三項を除き被告(反訴原告)において金二十万円の担保を供するときは仮に執行することができる。
事実
原告(反訴被告)代理人は、被告(反訴原告)は別紙第一、第二目録記載の不動産の売買契約が解除された(即ち存在しない)ことを確認する。被告は原告に対し別紙第一目録記載の不動産に対する名古屋法務局古沢出張所受付昭和三十一年三月三十一日第五三八九号、同日付売買を原因とする所有権移転登記及び別紙第二目録記載不動産に対する同法務局出張所受付昭和三十一年三月三十一日第五三九〇号同日付権利譲渡を原因とする停止条件付所有権移転請求権保全仮登記の各抹消登記手続をなせ。被告は原告に対し金百五十万円を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、請求の原因として、
一、原告は昭和三十一年三月七日被告に対し別紙第一、第二目録記載の五筆の土地(これらに対する仮換地合計二百三十坪余)を代金金六百万円にて売渡し、内金百万円は同日受取り、残金金五百万円は同月十七日これが所有権移転登記手続と同時に支払う約定をなした。
二、然るに右第二目録の宅地については前所有者訴外長谷川佐吉を債務者とする訴外株式会社東海銀行に対する根抵当権の設定登記がなされていたため、右売買土地全部につき直ちに売買の履行が困難であつたので、原、被告は便宜上昭和三十一年三月三十日右第二目録記載の土地(これが仮換地を名古屋中八工区十六Dブロツクの五、八十五坪三合九勺中西側五十七坪六合二勺なりとなして)に付いては公正証書を作成してこれを後日の手続に待ち、その余の右売買土地については同月三十一日前記売買代金金六百万円の中金四百三十三万三千五百円也の授受を終え、被告に対する名古屋法務局古沢出張所受付昭和三十一年三月三十一日第五三八九号同日付売買を原因とするこれが所有権移転の登記手続を、右第二目録記載の土地については同じく同法務局出張所受付昭和三十一年三月三十一日第五三九〇号同日付権利譲渡を原因とする停止条件付所有権移転請求権保全仮登記手続を了した。
三、而して右第二目録記載の土地に関する公正証書(甲第二号証)において
(一)残代金金百六十六万六千五百円の支払に付ては同土地の所有権移転登記をなしたとき即日支払う。(同時履行の趣旨において。)
(二)原告は昭和三十二年一月末日までに右土地に対する前記訴外長谷川佐吉の訴外東海銀行に対する極度額金三百万円の根抵当権設定登記を抹消せしめて被告に対し之が所有権移転登記手続の履践をなす。
(三)原告は昭和三十一年十二月末日限り前記売買地上に存する別紙第三目録記載の建物を除去する。
(四)被告が右代金の支払を一週間以上遅滞したときは原告は右売買契約を解除し、これが予定損害賠償額金百五十万円を請求できる。
等の条項が謳つてある。
四、原告は昭和三十一年十二月七日前項記載の補充契約に基き訴外長谷川佐吉をして右根抵当権設定登記の抹消登記手続をなさしめ、被告に対する右第二目録記載の土地の所有権移転登記手続の準備を完了して被告に対し同月九日以降数次に亘り右準備完了を通知し、同月十五日には内容証明郵便をもつて右所有権移転登記手続上の協力義務及び代金支払義務の履行を催告し、且つ被告に於て同月十九日迄にこれが履行をなさないときは第一項の売買契約を解除する旨の催告並に条件附契約解除の意思表示をなし、右郵便はその頃被告に到達したが、被告は右催告に応じなかつたので右売買契約は同月十九日の経過と共に解除せられた。
五、尤も右三記載の公正証書による契約は右一記載の契約を補充するもので独立性を持たないが、仮りに別個独立のものであるとするならば、同一記載の契約は同三記載の契約と独立して有効であるから、被告は屡次の催告にも拘らず右契約に定められた売買代金金六百万円の中金百六十六万六千五百円の支払をなさないのでここに原告は被告に対し本訴状をもつて、右契約解除の意思表示をする。
六、よつて原告は被告に対し別紙第一、第二目録記載土地の売買契約の終了に基き既になされた別紙第一目録記載の土地に対する所有権移転登記及び別紙第二目録記載の土地に対する前記仮登記の各抹消登記手続及び被告の右売買契約不履行による損害賠償予定額金百五十万円の支払を求め、且つ右売買契約の存否につき被告はこれを争うので併せてこれが不存在確認を求めるため本訴請求に及ぶ。と述べ、被告の主張事実を否認した。
被告(反訴原告)代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として、原告主張の請求の原因たる事実中一、二の各点及び三の中同時履行の点を除いた点を認め、右同時履行の点及び同四、五の各点を争い別紙第一目録記載の各土地については既にその代金を完済して被告の所有に帰し、その所有権移転登記手続も完了して履行済みに係り、又別紙第二目録記載の土地に関する売買契約において代金支払と所有権移転登記手続とが同時履行の関係にあるものとするも原告が右所有権移転登記手続書類を完備して被告に履行の提供をした事実はない。即ち原告は昭和三十一年十二月九日(日曜日)被告方に来たり前記根抵当権設定登記が抹消された旨を述べたのみで右抹消登記手続のなされたことを証する書類も見せず、翌十日には原告の使者と称する者が被告方に来たが要領を得ず、その翌十一日には原告が被告方に来たが唯代金を払えと怒号するのみに終り同月十三日に原告は被告方へ電話をかけて来たが所有権移転登記手続の日を約束せず、同月十五日(土曜日)原告より被告に宛て内容証明郵便を送達し来り右郵便の記載によれば原告の指示する右所有権移転登記手続履行期限は翌十六日(日曜日)となるので被告は原告と連絡をとるべく原告の所在を捜査したがその行衛が知れなかつたものである。
仮に原告より右所有権移転登記手続履行の提供があつたとしても該所有権移転登記手続の時期は昭和三十二年一月末までであり同時履行の関係上代金支払の時期も亦同日までとなるから被告が右提供の日に代金を支払わなかつたとするも履行期を徒過したことにならない。尚被告が原告より別紙第一、第二目録の各土地を買受けた目的は該地上に病院建物を建築するにあり、従つて、右土地を更地として買受けたもので、別紙第三目録記載の建物の除却は別紙第二目録記載の土地代金支払の先決事項であり、従つて、右登記手続期限の昭和三十二年一月末日より一ケ月早い昭和三十一年十二月末日をその除却の期限とし、原告が右期限を徒過して建物を除却しないときはその建物は被告の所有となる約定であつた。故に被告の代金支払義務の履行期は、原告が右建物を除却するか又は右建物の所有権が被告に帰する以前には到来しない。従つて原告の右所有権移転登記手続義務の履行の提供の時において被告にはこれが代金支払義務の履行遅滞は存在しないので原告の本訴請求はすべて失当である。と述べ、
反訴として、主文第二乃至第五項(但し本訴の訴訟費用の点を除く)同旨の判決並に仮執行の宣言を求め、請求の原因として、
一、被告(反訴原告)は昭和三十一年三月七日原告(反訴被告)より別紙第一、第二目録記載の土地を代金金六百万円にて買受けたが都合により昭和三十一年三月三十日右第二目録記載の土地を分離し右第一目録記載の土地につき代金額を金四百三十三万三千五百円と協定し、翌三十一日右代金支払と引換にその所有権移転登記手続をなした。然るに原告は被告の右第一目録記載の土地に対する所有権を争つている。
二、而して右第一目録と第二目録記載の土地上の一部には別紙第三目録記載の原告所有名義の建物が存在するところ、原、被告は昭和三十一年三月三十一日付前記第二目録の土地に関する公正証書において前述の如く原告において右建物を昭和三十一年十二月末日までに除却しないときは、その所有権が被告に移転する旨の契約をなしながら原告は右の期限を徒過して右建物の除却をなさなかつたので右建物の所有権は右期限の経過と共に被告に帰属した。然るに原告はその後も右建物を権限なく占有し被告にこれが賃料相当額の損害を与えている。
よつて、被告は原告に対し右第一目録記載の土地が被告の所有であることの確認、被告に対する右建物の所有権移転登記手続並に同建物の明渡及び右建物の所有権が被告に移転した日である昭和三十二年一月一日以降右明渡済みに至るまでその賃料に相当する一ケ月金一万円の割合による損害金の支払を求めるため反訴請求に及ぶ。と述べ、原告(反訴被告)代理人は被告(反訴原告)の反訴請求を棄却する。との判決を求め、答弁として本訴における原告(反訴被告)の主張を援用し、一、前記第二目録記載の土地につきなされた昭和三十一年三月三十一日付公正証書による売買契約なるものは、同年三月七日なされた別紙第一、第二目録記載の全土地に対する売買契約の一部につき履行の方法を定めたもので両者一体の契約であり、従つて両者別個の契約なることを前提とする被告の主張は理由がない。二、右第一目録記載の土地の占有は依然原告にありその引渡しを終つていないのでその売買手続を完結したものとはいえない。三、尚別紙第三目録記載の建物の所有権移転は原告の建物除去の義務の履行の一方法であり、右建物の除去は、右土地売買の成立を前提とするのであるから、被告は別紙第二目録記載の土地の所有権取得を主張しない限り右建物の所有権を取得し得ない。四、仮りに然らずとするも前記の如く、昭和三十一年三月三十日なされた公正証書による売買契約は被告の代金支払債務不履行により昭和三十年十二月十九日をもつて解除せられたので右契約に定められた原告の右建物収去義務も当然消滅し、従つて被告の右建物の所有権取得の条件も消失したものである。
と述べた。
本訴並に反訴の証拠(省略)
理由
まづ本訴について案ずると、原告主張の請求の原因たる事実一、二の各点及び同三の中同時履行の点を除いたその余の点は当事者間に争がなく、右公正証書(一)における右代金の支払と所有権移転登記手続とは同時履行の関係にあるものと解するを相当とする。而して右説示事実、成立に争のない甲第一、第二号証、証人高木亀代治(二回)同鬼頭泰次(一部)の各証言、原告及び被告(二回)本人の各訊問の結果を綜合すると被告は当初別紙第一、第二目録記載の土地中その一部のみを買受けここに病院を建築する考であつたが後に右土地全部を買受け同地上に病院並に居宅を建築することとなし前記売買契約の締結を見たるも、別紙第二目録記載の土地については前記説示の如く根抵当権が介在していたため改めて公正証書による契約が当事者間に取交されたもので右両契約が実質的に極めて密接なる関係を有することはこれを否定し去るわけにはいかないが、他方右各契約の形態並に前者については後者に分離せられた別紙第二目録記載の土地を除き同第一目録記載の各土地につき既にその代金の授受並に所有権移転登記が結了しておりこれと前記売買対象の拡張せられた経緯とを斟酌すれば後の契約は先の売買契約より別紙第二目録記載の土地を抽出して分離独立せるものとなり、両者は必ずしも主従一体の関係をなし必然的にその法律的運命を一になすべきものでないことが認められ、右鬼頭証人の証言、原告本人の供述中右認定に反する部分は爾余の右各証拠に対比して措信し難く、右甲第一、第二号証、成立に争のない甲第三、第四、第五号証、第六号証の一、二同第八号証の五、乙第三号証の一、二及び右原告本人の供述により真正に成立したことが認められる甲第七号証の一、二、証人神取すみ子の証言、右原、被告本人の各供述を綜合すると原告は昭和三十一年十二月七日右第二目録記載の地上の根抵当権設定登記の抹消登記を得、同月九日より同月十三日に至る間教次にわたつて、直接又は訴外神取すみ子を使者となし或は電話で被告に対し或は訴外長谷川佐吉の右第二目録記載の土地に対する昭和三十年十月二十八日受付第一七九七〇号の停止条件付所有権請求権移転保全仮登記に付抹消の委任状(乙第三号証の一)同訴外人を売主とする右土地の昭和三十年十月二十六日付不動産売買契約証書(乙第三号証の二)を寄託し、或は右土地謄本及び土地譲渡契約履行通告書(甲第七号証の一、二)を提示し同月十六日迄に右土地の所有権移転登記手続の協力を求めると共にこれが土地代金の支払を請求してその時期の交渉をなし、被告はこれら書類のみをもつては不安なりとし且つ右代金支払、所有権移転登記手続に先立ち右公正証書による契約に定められた別紙第三目録記載の建物の収去を原告に要求し、これに対する原告の誠意ある応答を得られなかつたため原告の右請求に応ぜず、よつて原告は同月十五日付書留内容証明郵便をもつて被告に対し右所有権移転登記手続上の協力及び右代金支払義務の各履行を催告し且つ被告において当初右履行の請求のなされた同月九日より一週間以内に右履行なきときは右契約を解除する旨の催告並に条件附契約解除の意思表示をなし、右郵便がその頃被告に到達したこと並に原告が昭和三十二年一月二十三日附書留内容証明郵便をもつて被告に対し右公正証書による契約の解除は先の全土地に対する売買契約も当然解除になる旨通告し右郵便がその頃被告に到達したことを認めることができる。
而して原告が被告に寄託せる訴外長谷川佐吉の右委任状(乙第三号証の一)は右甲第八号証の五に徴すれば原告を権利者とする停止条件付請求権保全仮登記に関するものであり、これと爾余の右説示の寄託乃至提示書類のみをもつてしては原告所期の右土地の所有権移転登記手続をなすには勿論不十分にして右説示の如く原告の建物収去義務に対する不誠意と相まち被告においてこれに著しく危惧の念を抱き原告の右登記手続の協力の呼掛けに直ちに応じなかつた点にももつともな節がない訳ではないが右移転登記手続書類は右登記手続の時迄に整備すれば足るので原告の右催告当時該書類が完備していなかつたとしても必ずしもこれのみをもつて直ちに原告の右催告を失当となし難く、又前記公正証書の契約によれば右売買代金支払並に所有権移転登記手続の時期は前記説示の如く昭和三十二年一月末日までと定められているので特段の事情なき限りそれらの履行期がそれ迄は当然到来しないものともなし難い。然るに前記説示の如く公正証書による契約に於て原告は昭和三十一年十二月末までに別紙第三目録記載の建物を収去すべく定められている外前記甲第二号証によると原告が右収去をなさないときは右建物の所有権は被告に移転する旨の違約罰が附せられていることが認められ、これと被告の右全土地買受目的がここに病院並に居宅を建築するにある前記説示とを合せ考えると第一義的に原告に右期限までの建物収去義務を定めたものにして右被告の各供述によると右違約罰は第二義的なものに過ぎないことが認められる。尤も前記甲第一号証、鬼頭証人の証言、原被告本人の供述によれば右建物の収去は当初は売買土地の所有権移転登記手続並に代金支払後と定められており、後の公正証書による契約締結に際しても当初は前記第二目録記載土地の所有権移転登記手続の期限を昭和三十一年十月二十九日、右建物収去の期限を同年十二月末日となす案であつたが、前記根抵当権抹消乃至所有権移転の各登記手続の万一の故障を顧慮してその期日を翌昭和三十二年一月末日となした事情にあり、被告も必ずしも右建物の収去を右土地の所有権移転登記手続並に代金支払の先決問題とまで定める考ではなかつたことが認められるのであるがこれをもつて原告の右建物収去義務を消極に解すべき事由となし難く、前叙の如く昭和三十一年十二月十五日付の原告の催告並に条件付契約解除の意思表示のなされた当時は原告の建物収去義務は現実に存在し被告は右各土地買受目的たる病院等の建築のために右建物の収去されることを切望しおり原告の右建物収去義務の最終履行期限が後旬日を余すのみの状況において、被告の要望にも拘らず原告が右建物収去の前記第一義的義務につき何等誠意を示さず、一方的に前記所有権移転登記手続義務についての弁済の提供をなすのみにて被告に前記代金の即時完済を迫る如きはよしんば右建物の所有権が前記の如く被告の所有に帰することあらんも尚右建物に別途の負担の附着しいることも必ずしも絶無とはなし難きをもつて、被告に至難を強うるものにして信義誠実の原則に著しく違背し被告において原告の右建物収去なる第一義的義務履行につき不安を抱くのも当然で、這の間被告の責に帰すべき事由による債務不履行を惹起し難く、况んや被告の前記各供述によれば、原告の右催告は右各履行期日の交渉の最中である昭和三十一年十二月十五日被告に到達し、その催告期間は翌十六日を最終となし、当日は日曜日に当るとて被告はこれが前後措置につき百方原告と連絡をとらんとせしも杳としてその所在を据え得ざりしためやむなく右期間を空しく経過したことが認められ、従つて被告には原告所説の如き債務不履行の廉はなく又前記別紙第二目録記載の土地を含む全土地の売買契約が後の公正証書による契約と独立して全面的に存する旨の原告の主張は前記説示に徴し採用し難く他に右各認定を覆えすに足る証拠はないので、原告の本訴請求はすべて失当としてこれを棄却する。
次に反訴について案ずると、反訴原告(被告)主張の請求の原因たる事実一中冒頭より所有権の移転登記手続をなした点迄は本訴に対する説示の通り当事者間に争なく、反訴被告(原告)が反訴原告の別紙第一目録記載の土地の所有権を争つていることは記録上明らかであり、同事実二は損害額の点を除き前記甲第二号証、反訴原告(被告)の各供述並に弁論の全趣旨によりこれを認め得べく、損害額の点は鑑定人早川友吉の鑑定の結果に前記長谷川証人の証言、別紙第三目録記載の建物の建坪が九十一坪余二階坪九十一坪余なることと別紙第二目録記載の土地の坪数が百十六坪余、その仮換地の坪数が五十七坪余なること並に弁論の全趣旨より右建物が右第二目録記載の土地外に跨つていることが認められる事実を綜合すると月額金一万円を相当と認める。而して反訴被告(原告)のこれに対する主張一は本訴の判断における説示により理由のないことが明らかであり、同二は前同説示の通り既に代金の授受、所有権移転登記を完了せる以上売買手続を完結せるものと認むるを相当とし、同三も前同説示並に前記甲第二号証公正証書の記載によれば該契約の有効に存する以上該契約の履行の完了前既に反訴原告は別紙第三目録記載の建物の所有権を取得し得べき趣旨に解し得られざるにあらず、右契約は前同説示の如く未だ解除せられずただ右建物の所有権が反訴原告に帰した上は改めて前同説示の如く同時履行の関係において双方債務の本旨に従いたる履行をなせば足るべく、(尤も右建物に何らかの負担を止めいるにおいては尚問題点を存すべく)同四も前同説示に徴し理由がないのでいづれも採用し難い。
果して然らば反訴原告(被告)は別紙第一目録記載の土地がその所有であることの確認を求める利益があり反訴被告(原告)は反訴原告(被告)に対し別紙第三目録記載の建物の所有権移転登記手続をなし且つこれを明渡し、その所有権が前記説示の如く昭和三十一年十二月三十一日の経過と共に反訴原告に移転したるを以てその翌日たる昭和三十二年一月一日以降右明渡済に至るまで右賃料に相当する月金一万円の割合による損害金を支払うべき義務のあることが明らかであるので反訴原告(被告)の反訴請求はすべて正当としてこれを認容する。
よつて民事訴訟法第八十九条、第九十五条、第百九十六条第一項を適用し、尚主文第二、三項については仮執行の宣言を附し難く、主文のとおり判決する
別紙
第一目録
名古屋市中区葉場町二十三番の二
一、宅地 百二十五坪四合六勺
右仮換地 名古屋中八工区十六Dブロツク六番
一、宅地 八十四坪六合
右同所三十八番の十一
一、宅地 百七十坪
右同所六十三番の三
一、宅地 二十九坪八合八勺
名古屋市中区流町四十八番の十六
一、宅地 七坪五合
右三筆仮換地 名古屋中八工区十六Dブロツク五番
一、宅地 八十九坪五勺
第二目録
名古屋市中区向田町百五十九番
一、宅地 百十六坪七合九勺
右仮換地
名古屋市中八工区十六Dブロツク4ノ1
一、宅地 五十七坪六号一勺
第三目録
名古屋市中区波寄町四十一番
地上建物家屋番号第四十一番の二
一、木造瓦葺二階建居宅
建坪 九十一坪六合六勺
外二階 九十一坪六合六勺